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「孤独な帝国アメリカ 」書評 [ブックレビュー]

孤独な帝国アメリカ 世界の支配者か、リーダーか

孤独な帝国アメリカ 世界の支配者か、リーダーか

  • 作者: ズビグニュー・ブレジンスキー
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2005/10/13
  • メディア: 単行本


 ソ連崩壊をプロセスまで克明に予測したアメリカの知性、ブレジンスキーの最新著作。原著のタイトルは「ザ・チョイス」なのだが、内容が現代アメリカと世界の動向に向けられているので、邦題が変わったのだろう。原題の「チョイス」、つまり「選択」はアメリカが孤立化していくのか、リーダーシップを取るかという問題が主題である。現実ではブッシュ政権のアメリカは残念ながら孤立化の道を歩んでしまっている。

 ブレジンスキー自身はアメリカを帝国とは呼んでいないが、世界ではじめての世界規模における覇権国家である、との認識からアメリカの外交政策を論じている。著者は超大国として世界の安定のために積極的に寄与していく必要性があるとのスタンスをとっている。

 世界中で反米感情が高まっている理由に言及し、アメリカがグローバリゼーションを積極的に推進する一方で、ロビイストの活動によって国内産業を保護、自国にはグローバリゼーションの適用を例外とする政策は国益を重視する国ならどこでもすることだが、アメリカの場合は横暴と映り、嫌われる要素となる、としている。弱小国家の主張はEUやアメリカの前では通らない、と臆面もなく言い切ってしまうところに反発を覚えるが、現実である。著者がアメリカ文化を持ち上げている点には賛同できない。アメリカの大衆文化は巨大な富に支えられており、それゆえに物質的な面で世界のあこがれであり続けてきた。ワビサビやモッタイナイなど、物質文明礼賛とは真逆な日本古来の慎み深い生き方、考え方が必要な時代に差し掛かっているにもかからわず、ブレジンスキーといえどもこうした点には一般アメリカ人同様に鈍感だという印象を持った。

 もちろん、そういう点を除けば、世界各国の世論や国勢を的確に客観的に分析しており、アメリカの政策の是非、特に各国の思惑を慎重に分析し、単純に宗教対立などの図式に当てはめてしまうことの危険性を指摘している。特に中東情勢においては、イスラム穏健派との関係を深め、アメリカがイスラムの敵ではないことを理解してもらうようねばり強く交渉していくことの必要性を訴えている。
 アメリカ自体の民族構成の変容についても言及しており、アメリカ政治の決定のプロセスもかいま見られて面白い。ユダヤ系の圧力が年ごとに強まっていること、アルメニア系の圧力でアゼルバイジャンへの経済支援がストップしたことなど、アメリカのマジョリティの意思とは違う思惑で政策が決定してしまうところなどは、世界の民族対立の火種をアメリカが国内で作り出してしまうといった問題点があることも理解できた。また、ブッシュ政治が、民主主義として大事な透明性を欠き、国民に大事な情報を提供せず、密室政治になってしまっている、と現状を分析している。 

 アジア情勢にも言及しており、日本と中国、アメリカの紛争の火種について指摘している。日本の軍備増強がアジア情勢を不安定化させる可能性に言及しているが、日本の現在の政策や世論にはおおむね高評価を与えている。

 一冊の本でこれだけ端的に国際情勢、それもコアな情報はなかなか手に入らない。ブレジンスキーの主張のすべてを鵜呑みにする必要はないが、バランスの取れた分析には誰もがうならされるはずである。学校や大学で渡される現代史の教科書や国際情勢のテキストが退屈だと思う方には是非おすすめしたい。

以下はアマゾンの紹介記事

出版社 / 著者からの内容紹介
 覇権の拡大か民主主義国の使命か、グローバリズムの推進か国家主権の維持か――相容れない価値観のあいだで揺れ動く国際社会は今後どういう方向に動いていくのか? 他の追随を許さない唯一の超大国アメリカは、EUは、中国は、そして日本はどんな選択をするべきなのか? 現代最高の知性の一人が、大統領補佐官としての豊かな政治的経験と地政学の成果をもとに的確な現実的指針を提示した問題の書。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ブレジンスキー,ズビグニュー
1928年、ポーランドのワルシャワ生まれ。10歳のときカナダへ移住。ハーヴァード大学で博士号取得。コロンビア大学教授、カーター政権の国家安全保障担当大統領補佐官を歴任。キッシンジャーと並び称される戦略思想家として、アメリカの外交政策に影響を与える立場にある


著者ズビグニュー・ブレジンスキー氏


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